夢のみとりz

見取り図を書いたり、看取ったり……黙って見とれ?はいはい。。。

From Mirotic to Exotic

EXOの日本デビュー・シングル初動が62000枚ほどと言うニュースを見ました

 

www.tnsori.com

AKBとジャニーズの間隙を縫った形では有るにせよ、結構な枚数が売れたなあという感じです。この枚数に、Kアイドル式(AKB方式でもありますが)の複数買いがどの程度含まれるのか、興味は有ります。

 *などと書いていたらツイッターで14900枚まとめ買いの認証が上がっていてびっくりしました。下記参照。

さて、EXOは東方神起と同じエイベックスレーベルから発進するということで、気になる記事を見かけました。小野登志郎さんの書かれたサイゾーウーマンに載った記事です。

www.cyzowoman.com

この記事では、EXOが如何に正統なる東方神起の後継者であるかということが中国市場戦略中心に語られていまして、挙げられていた過去のメンバーローテーションエピソードの内容を私もくっきり思い起こしました。2004年日本デビューも果たし、「奇跡の五人」という基本コンセプトがファンにかなりアピールして居た頃ですね。勿論私はその当時はほとんど彼らを知らなかったに等しく、ローテーション事件のエピソードも2011年以降に興味を持ち始めてから調べて知ったものですが。

こちらが当時のプレスコンファレンスの様子の動画です。本当に5人がとても可愛いです。


041126 NEWS TVXQ 解散説否定 - YouTube

 小野さんが書かれているように、韓国ではグループのオリジナルメンバーを守ることがよしとされる文化が確かに有るようで、未だにちょこちょこ(ほそぼそと?)と聞こえてくる「完全体(5人)の東方神起をまた見たい」という、コアなファンからではない、一般的な声などがそれを象徴しているように見えます。逆にコアなファンになればなるほど「それは言えない」と沈黙することが多いですよね。こういった発言は言ってるほうにあまり他意はないと思うのですが、それが聞こえるたびに、ファンダムが躍起になって「お花畑」とネット上で攻撃して黙らせる、という笑えない状態には非常に居心地の悪さを感じます。でも、それも東方神起が始まった頃から続くファン現象をある意味代表するものと言えるでしょうね。

 

このような性格、つまりはとても攻撃的で排除的な特徴ですが、東方神起の初期には中国人メンバーの新規加入ということに向けられていたのが、分裂劇が起こった時には二極化して、お互いを排除しあうようになりました。その途上で二人の音声を消して3人だけの声を残した5人曲の動画(いわゆる「鉄道」ムービー)が出現したり、二人だけで過去曲を再録、再発売して欲しいという声(いわゆる「上書き」コール)が大きくなったり「過去の否定」が始まり、同時にそういった攻撃態勢に疲れ棲み分けするファンも多くなりました。棲み分けとは体のいい言葉ですが、要するに地雷を踏まないための「アパルトヘイト」といえるのでは無いでしょうか。

 

そして、こういったマイクロレベルでの「政治的」なファン傾向は、確かにEXOにも受け継がれています。小野さんは「目論見」的な面からEXOを正統なる継承者と名指ししているのですが、私は「結果」としてのファンダムの傾向からもその説を支持したいと思っています。現在3人の中国人メンバーの脱退(もうすぐ4人?)によって、かなり混乱状態にあるEXOファンダムですが、その直前には同じSMエンターテインメント内でのSHINeeファンダムとの争いも顕在化していました。下記の記事ですが、ざっくりと状況を言えば、EXOのデビュー後かなりの数のSHINeeのファンがEXOに流れ、ファン同士が反目しあう状況が生まれた。EXOのファンになった後もSHINeeのファンクラブの会員を抹消せずクラブ残留していたファンがSHINeeのライブチケットを大量に押さえ、それをオークションなどで高額で転売。その利益をEXOの音盤購入などサポートに充てている、というもの。確かに、東方神起先輩も音盤やグッズ購入が「応援」の一番の目玉でしょうか?だから、それを継承することもポスト東方神起には必要なのかもしれません。だとすると、上記の15000枚も「必須条件」としての性格を帯びてきますよね。

seoulbeats.com

実は、私の個人的な感想を言うと、SHINeeは「もう一つの(幸せなままの)東方神起」の面影を濃く宿している、と思っています。それは「正」の東方神起の要素とも言えます。オリジナルの5人をずっと維持し、それなりのソロ活動も有ります。東方神起の分裂を間近で見たからか、先輩グループでSMから平和的独立を遂げた先輩グループである「神話」の非常に有名な東方神起へのアドバイスであった「問題を感じた時は(他人を入れず)にメンバー同士だけで話し合いなさい」という言葉を忠実に守って居るというエピソードも聞こえてきます。ファンダムはこれまた東方神起に似て、年上ファンが多そうです。(東方神起先輩には高齢ファンの多さでは勝てないだろうとは思いますが。笑)東方神起の分裂後に抗争に疲れてSHINeeに乗り換えた日本ファンも多いと聞いていますが、どうなんでしょうか?アイドルに不可欠の萌えと癒しという要素のうち、どちらかといえば彼らは「癒し」の要素が強いアイドルと言えるでしょう。

 

 Miroticから Exoticへ

 他方EXOはEXOで、後継者たる要素がぎっしりです。以前に書いた記事を2つほど並べて置きます。

ravensk.hatenablog.com

ravensk.hatenablog.com

やはりEXOには東方神起と似通った「愛と戦争」を自分もEXOに重ね合わせるようです。比較してみても、「萌え」(あるいは燃え)要素、つまりセックスファンタジー的な要素はどうしてもEXOのほうがSHINeeに比べ強いように見えます。それは元々のメンバー構成が、中国という更なる「差異性」を含んだせいも有るし、加えて相次いだ脱退劇と日本デビューのタイミングを重ねあわせると、分裂後の東方神起とJYJに使われた「排除の物語」が比較的容易に使えると言う部分もありそうです。脱退した(しかけている)のは全て中国人メンバーですし、日本側では元々有る「嫌中」感情を利用して残った8人(または9人)を「クリーン:非-金の亡者」イメージで運営していけそうです。また中国側ファンダムの日本市場に対する競争意識またその逆を刺激する事も出来ます。小野さんのおっしゃる日中のファンのガチンコ勝負がそれでしょうか?上の様な中国ファンの爆買い現象を日本市場で利用できるなら、SMのみならずエイベックスにとっても内需だけに頼らない販売戦略が組めるでしょう。いずれにせよEXOの早い成功、早い分裂が見せているのが東方神起の歴史の中の「反」的な特徴かも知れないと思っています。戦いというものは酷く「セクシー」ですからね。

ついでに東方神起の歴史の、その「反」である3人側、グループとしてのJYJについても言及しておけば、「物語」を使って居たのは同じで、反対側から見た「排除の物語」つまり「奴隷契約に訴訟で立ち向かったが、芸能界から干される」というストーリーに成っています。そしてこちらのストーリーは日本では力を持ち得なかった。なぜでしょう?

日本のファンの反応をじっと見ていると、やはり日本という国の世相を写しているなと感じる事が多々あります。例えば「副業アレルギー」とも言えるような反応、アイドルが政治的になることへの拒否反応などが度々現れます。アメリカ在住で、仕事をいくつも掛け持ちすること*1を見慣れている私には「副業アレルギー」は昔日の記憶、なのですが、日本では今でも多分に現役のコンセプトなのですね。

また、例えば政治問題や自らの存在と社会との軋轢をポップ歌謡として歌い込む事がK-popでは日常茶飯時に有りますが、東方神起の初期のヒット曲も韓国語版はわりとガチに思想的だったりしますが*2日本語歌詞の方はは内容に深入りはしていない。竹島問題や慰安婦問題などに芸能人が触れる事も、また社会奉仕活動など政治性の高い活動に携わる事も通常モードで韓国芸能界では見られるようですが、日本では、それらが反日であるから反発するということもさりながら「政治的」である事自体にも大きな拒否反応が起きている気がするんです。SEALDsなんかへの拒否反応を見ると納得出来るのですが、JYJが分裂後にとてもメッセージ色の濃い楽曲を出したときの反応も、日本ではイマイチというか割と冷めたものであったと思います。

AKB等は逆に「政治」を利用して居ますが、これは虚構性が基本としてあるわけで、実際に現実の政治に物申してしまったアイドルは結構な勢いで駆逐されてますよね。*3何より、AKB政治の主権者はファンであって、彼女たちがデコイであるか、決められた籠の中で政治ごっこをしているのは確かで、それは、組織を動かしているのが彼女たちではなく、「民意」を反映するとしてもあくまで秋元さんというのが有るでしょう。でも実際の日本の政治状況よりもAKBの総選挙のほうが余程面白いのも確かです。

 

これらは本業を正しく真面目に分相応に行なってさえいればきちんと果報が得られると期待するという社会構造*4や、たとえそれが幾分理不尽であったとしても声をあげたり「被害者」を名乗ることはあさましいと見て嫌う文化的な背景が有るでしょう。ロック・バンドであればいざしらず、殊にアイドルがそれをやるとなれば大切な「癒やし」や「萌え」が消えてしまう。フィクション的な政治性や曖昧な精神論、自分語りは許容範囲であっても政治的に立ち入った内容やリアリティはNGを突きつけられる。アイドル、韓流アイドルには特に、ファンが優位に立てる事、消費によって制御できる「萌え」がひどく重要だということでは無いでしょうか。

 

結局「アイドル」はアイドルという萌えや癒やしというサービスを提供するべく創られた商品であって「人間」でも「神」でもない。人間ではない彼ら、彼女らに「政治はない」というのが、かなり乱暴に括れば日本的なファンの態度かも知れません。*5

相手が自分と同等の人間、あるいは踏み込めない神と認めてしまった場合そこに「萌え」や「癒やし」、あるいは性的な興奮は求めにくい。アイドルのネガティブな実像を運悪く見てしまって、萌えられなくなったと言うのはよく出産立会をした旦那様がたが「女房を人間として尊敬するけど、セックスはできなくなった」と言うアレに似ているなと思います。*6

ファンは自分たちが非常に政治的な動きをしているのにも関わらず、アイドルに政治を認めないというのが苦笑せざるを得ないところでは有りますが。勿論、この構造をコロニアル理論やネオコロニアル理論と関連付けて観る事も可能です。上野千鶴子先生が北原みのりさんの『さよなら韓流』で述べられていたように、私達は「韓流」男性アイドルのマスキュリニティを”思うさま消費”している。彼らを「管理可能な理想型」としてマイクロレベルでとても政治的に争奪しあっている。しかし、その政治性を自覚することを嫌がってもいる。と、思うのです。実際、マクロレベルの政治にも非常に影響されていると思うのですが。

こういった「結果」としてのファンダムの性質から見て、確かにEXOはまさに東方神起の正統な後継者である、と言えるとは思います。そして柳の下の泥鰌はいったいどんな泥鰌なのかも気になるところではあります。

*1:これは余分なお金が欲しいということも勿論有りますが、副業しないと生活が回らない貧困層の厚さ、また副業することも「働き者」とみなす文化も有りますね。日本では「ずるい人」というイメージでは無かったでしょうか?

*2:ユ・ヨンジンの哲学三部作などが典型的。

*3:憲法で有名な内山奈月さんは、自ら卒業するのでしたっけ?

*4:メリトクラティックな構造ですね。バブル期までは日本は世界でも稀有な位メリトクラシーが進んでいた様に見えましたが。今では。。。

*5:人間では無いのはある意味「女」も同じなのですが。。。

*6:この場合の神はあくまで一神教的神であり、制御できない、推測不可能でいう事を聞いてくれない「裏切る神」を指します。ネットスラングのネ申は「理想」に近い。大澤真幸さんと橋爪大三郎氏の対談を資料として挙げておきます。

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