夢のみとりz

見取り図を書いたり、看取ったり……黙って見とれ?はいはい。。。

カルチュラルテクノロジーと文化産業について

今日はカルチュラル・テクノロジーについて、です。
まずはこの言葉について御存知ない皆様のためにウィキのURLを下に載せておきますので、参照なさって見てください。(英語でごめんなさい。日本語に訳されてないのはなんでかしらね?今どき中国語もスペイン語も無いなんて。あと、参照に上がっている、John SeabrookのNYタイムズ記事タイトルの大見出し「Factory Girls」が抜け落ちているのはなぜかしら???)

いちおう、この言葉の定義らしきものが載っています。他にもK-POPについての研究文献、例えば、企業の研究室などで編纂されたものなんかの中にもちらちらと出て来ますし、アメリカの新聞、雑誌なんかにも取り上げられてることは有るのですが、そういった今までみた記述を総合してみると、このタームは学術的な「理論」というよりは、マーケティングの方法、ビジネス・ストラテジーの「名称」というのが確実であるように思います。

起源も色々言われては居るのですが、SMエンターテインメントの現会長、イ・スマン氏が自ら14年前に提唱した、と言ってます。とりあえずはそれが一般的な認識のようです。

上で定義らしきもの、という風に言ったのは、実はかなりその核心がぼかされて表現されているからなのですが、とりあえずも無理矢理に表現してみますと、語釈的には「文化技術」となるでしょうか?元はInformation Technology(情報技術)から造語したもののようですからね。ただし、情報技術、はとりあえず私の理解では有りますが、語義的に情報を伝える「装置」「メカニズム」を指しているのに比較して、スマン先生は、文化そのものをテクノロジーの一種と考えておられるらしい。ただ「文化」は「情報」と比べより精巧で複雑さを持つものとおっしゃっておられるのですが、何がどのように複雑で、その伝達のメカニズムや装置については、あまりどこにも触れられていないように思います(企業秘密?少なくとも論としてはという意味ですが。。)なんか、このCTという言葉に対してもやもやが有ったんですよね、自分。

一応ここに、Youtubeに上がっている2011年のスタンフォード大でスマン氏が韓流とカルチュラルテクノロジーについて行なった講演の様子を収めた動画を貼っておきます。(ちなみに通訳は息子さんですね〜。。。14歳位?)英語が苦でなければ御覧ください。

Stanford Graduate School of Business よりお借りしています。

3年前、韓流が日本でも最大に盛り上がってた時期のスピーチになります。これによるとカルチュラル・テクノロジー(以下CT)には3段階有るそうです。まず、最初の段階は韓流文化コンテンツの輸出。芸能人が韓国外に出て、パフォーマンスしたりすること、映画やドラマの輸出でしょうか?Rainや冬ソナを思い浮かべますね。*ただし、、最初の段階を芸能人スカウトと「トレーニング」とする解釈も有るようです。Wikiにもそのように書かれて居りますが、選りすぐった練習生にダンスや語学、文化の違いからくる化粧方法の差、衣装のカラーリングなどの違い、立ち居振る舞いを徹底してそれも長期間叩き込む。その結果芸能人のパフォーマンス力、生産性を破格的に押し上げる。)

その後に続く第2段階は現地市場との結びつきによる市場開拓。第一段階でトレーニングを受けた歌手が、各外国市場で頑張るということになります…韓流研究で良く見られるのが、ここの部分で、ここで中心になるのが「超国籍」。(*日本で言う無国籍、のようなコンセプト。国の色、匂いをあまり感じさせないよう各市場に同化したり、より受け入れられやすい様に西欧フレーバーを施したりする)

第3段階は、第二段階の各アーティストの働きによって受け入れ体制ができた各市場で合弁企業の立ち上げや、各国の作家陣、振付師などとのコラボ作業を活発に行う事によって、アジアエンタメ市場を統一、アジアのハリウッドを作り上げる、という事のようです。

うちのレギュラー読者の皆様もピンと来られたと思いますが、日本に初めて送り込まれた東方神起の5人が体験したのはもちろん1段階を経た上での第2段階であったという事になるでしょう。そして彼らが、日本で現地化、同化戦略を取ったのも、第3段階を見通して、ということになりますね。

今までの様子を見ていると第3段階として挙げられている事項は第2段階でもちょくちょく見られてはいたのですが、現在かなり明らかに第3段階にはいった、という感じに見えます。

ここで私が気になってるのが中心に有るはずの「文化」「文化コンテンツ」そして「文化産業」です。

まず文化コンテンツは、文化の商品化、取引されるべき文化内容ということになりますか。たとえば日本も「クール・ジャパン」などどいう合言葉で、世界に向けた文化的アイテムの市場性を歌っています。古くはキャプ翼が中東で人気だったとか、セーラームーンがヨーロッパで人気とか…Hello Kittyは押しも押されもしないブランドだし、今なら、パフュームやきゃりぱみゅなんか人気ですよね?もっと古くは、浮世絵なんかはまさに「EXOTIC=エキゾチック」アイテムとして欧州で交易されていたみたいですし。

ただし、です。

文化が商品化されて取引されるのには、政治や思想も絡んでの結構な歴史があるんですが(ご禁制のXXXXとかさ?)現在グローバル資本主義下で大量消費されているのは「文化的消耗品」であるということは言えると思います。例えば、欧米の例を上げるならば一番の典型がマック!文化のマクドナルド化、なんていうフレーズも有りました。もっと最近なら「スターバックス」…こちらはスターバックス化する世界、、、ですかね。私は日本の個人経営の喫茶店ってすごく好きなんですけどね!だんだん無くなって来ているとか、、寂しいです。

この大量消費を支える「文化的消耗品」にはもちろん、ポップ・カルチャーや、ポップ音楽も含まれてきますが、この文化的消耗品を作り出す母体システムとして音楽家でもあって著名な社会心理学者、哲学者のテオドール・アドルノが提起したCulture Industry(文化産業)が有ります。(下記参照文献は、またも英語で申し訳ありません。ただ、アドルノについては日本語ウィキがあるので興味が有る方は、見てみてください。)

文化産業は、簡単に言ってしまえば上記のような大衆文化を工業的に作り出し、販売する「システム」「装置」の事です。20世紀以降、特に第2次世界大戦前後から急速に発展した通信、輸送技術によって、「文化」はグローバルに散布できる状態になりました。

アドルノはこの文化産業、そしてポップ音楽を痛烈に批判しています。

文化、とりわけ彼が愛する音楽などの芸術性は、この工業化によって部品ごとに「交換可能」な、簡素化、低級化は免れず、音楽を聞く「耳」は、視覚的(或いは物理的)フェティシズムが音楽に加えられる事によって、退化すると言い切っています。(上記John Seabrookの記事は、このフェティッシュ部分にK-POPが巨大な投資をしていることをソフトに言い当てています。)

アドルノが全てに於いて正しいとは勿論言えません。彼が否定したジャズにもポップ音楽にも高い芸術性を持った作家、プレイヤーは実在すると思いますし…でも、それでも彼の言っていることは依然として高い説得力を持っているとも感じます。

これをイ・スマン氏の提唱するカルチュラル・テクノロジーと重ねて見ます。スマン氏が曖昧なままにしてある部分、文化そのものがテクノロジーだと言ってしまっている部分が違いとしてありますよね。ですが、その方法として提案している3段階の戦略を見てみると、CTが実体としてはアドルノの言う「文化産業」そのものではないかという見方ができるのではないかと思いました。カルチュラル・テクノロジーは、実は文化を伝達する「装置」としての文化産業の別の言い方にほかならないのではないでしょうか?そして文化の工業化、消耗品としての流通のさせ方の提案にほかならない。

いや、いいとか悪いとかでは有りません。ここでJudgementを行いたいわけではないですし、CTはビジネスとしてある意味非常に成功しています。しかも、このCT理論(理論じゃないんですけどね、ホントは)は、アメリカのポップカルチャーの世界散布、日本のポップカルチャーの世界の大衆文化シーンにおけるプラットフォーム化とも通じていますし、基本的には同種のものであると思います。そしてSMエンタだけではなくて、韓流全体のビジネスストラテジーとして使われていると思います。

はあ、もやもやがすっきりしたw消費する側としては、風通しよく消費したいですから。正体をきちんと確かめる事は、賢い消費者たる第一歩よねww


参照URL
カルチュラルテクノロジー
http://en.wikipedia.org/wiki/Cultural_technology
テオドールアドルノ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%AA%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%8E
アドルノ:フェティッシュキャラクターによるリスニングの退化
http://www.musiccog.ohio-state.edu/Music839B/Approaches/Adorno.html
アドルノ:文化産業
http://www.wright.edu/~gordon.welty/Adorno_84.htm
ジョン・シーブルック:ファクトリーガール−K-POP制作とカルチュラルテクノロジー
http://www.newyorker.com/reporting/2012/10/08/121008fa_fact_seabrook?currentPage=all